ここで、イギリスの鉄道事情をおさらい。
イギリスの鉄道網はかなり発達していて、よほどの田舎でない限り鉄道で訪れる事が出来ます。日本のJRに当たるのが英国鉄道(British Rail=BR)で、1994年に分割民営化されています。日本だと「JR東日本」「JR北海道」という分かりやすい分割名だけど、BRでは "Arriva Trains Wales" , "Virgin Trains" などと統一感のない名前になっているのが面倒。ホームページは各会社ごとに持っていて、レイアウトも機能も全く異なるので、時刻表をWebで見るだけでも相当な手間なのです。
まあ、その辺は出発前にゆっくり準備出来る部分なので、がんばってマイ時刻表を作成。万全の準備でBRに臨んだはずなのでした。
ところが、現地に行って初めて気づく事が多数。まず、列車には番号も名前も振られていません。日本だと「エアポート100号」「ひかり36号」という具合に固有の名称がありますが、BRは機械的に「何時何分、A駅発B駅行」というだけです。列車が時刻表通りに運営されていればどっちでもいいのですが、BRでは遅れるのが当たり前。目の前に止まっている列車が、時間通りに運行しているものなのか、一回り遅れているのか、その判断が全くつかないところが困りました。
次に、列車本体に運行情報が書かれていません。日本だとドアの横あたりに「ホワイトアロ−3号」の様な電光表記があったりして、列車を見れば行き先が分かるようになっていますが、BRでは列車自体には運行情報は書かれていません。ホームにある電光掲示板を見て、何分に何番ホームに止まっている電車だから、B駅行きに違いないと判断するしかないのです。(まれに行き先を書いた紙が貼ってある事もあります、右図)
このトラップには何度も引っかかってしまいました。たとえば、自分の乗りたい列車が10番ホームから出る予定(=expected)とします。出発5分前に10番ホームに列車が止まっていれば乗り込むしかないのですが、いざ乗り込むと、それは遅れて出発した1本前の列車で、行き先も経由も全く違う、ということが何度もありました。駅のアナウンスが判読出来ればこういうトラップに引っかかることも減るのでしょうけれど、これは何とかしてほしい(まあ、今後困る事はないからいいんだけど)。列車の中では乗客同士で「これは〜に行くの?」という会話がしょっちゅう交わされていたから、英国人でも実は分かりにくいのかも。
先日引っかかった列車の分離(=divide)は、時刻表にも駅の表記にも書かれていないみたい。あくまでもアナウンスで判断してくれって事のようです。
他にも、駅にある駅名表記の看板も様子が違っています。日本だと両隣の駅名も表記されていて、次に止まる駅が分かる(ついでに進行方向も)のですが、BRだと自分の駅名だけ。列車が目的の方向に進んでいるかどうかを知るためには、次の駅に到着しないと分からないという仕組みです。まあ、間違った方向に進んだ時点でアウトだからいいんだけど。
駅に改札がなくて、切符を持っていなくても自由に列車に乗れてしまうのには驚きました。そのかわり、車掌さんがしょっちゅう見回りにきて切符と目的地を確認しています。おかげで「〜に行きたいんだけど」のような質問が出来て助かりましたが。
他にも、列車にはゴミ回収係の人が乗っていて、運行中に机の上に残されたゴミを集めています。列車内にゴミをそのまま置いて行く人が多いのはこれが原因でしょう。なんというか、不思議なマナー感覚。
列車のドアも変わっていて、駅に着いても自動で開いたりはしません。ボタンを押して自分で開ける仕組み。これは日本のローカル線でも見るからそれほど難しくないのですが、「手動」で開ける車両もあったのは驚きです。
あるとき、駅に列車が入ってくると、全ての乗降ドアから人が顔を乗り出していて、ドアの「外」についているノブに手をかけていると言う場面に出くわしました。列車が停止して、「ドアを開けてもいいよ」というサインが出ると、一斉に手でカチャカチャとドアノブを操作して乗客が勝手に出て行くと言う、非常に面白い光景でした。
そんなこんなで、カルチャーギャップに迷いながらもなんとかロンドンまで戻ってきました。リバプールからロンドンまで直通で3時間。ウェールズ回りだと12時間かかったのが嘘のようです。
夕食をとった後は「ピカデリー・サーカス」へ。ロンドン随一の繁華街で、東京でいうなら渋谷、札幌でいうなら大通り近辺のような所。
午後7時を回っているのに明るくて、街には若者が沢山。エロスの像の前で信号待ちをしていると突然、ローラーブレードを履いた警備員がやってきて道路の通行止めを始めました。
何が始まるんだろうと見ていると、ローラーブレードを履いた数百人が一斉に道路を走ってきます。レースではなくて、単に楽しんで走っているみたい。ステレオを鳴らして、楽器を弾いて、矢のように通り過ぎて行く様にポカーン。警備員が車に一礼して、集団はどこかへ走り去っていったのでした。あまりに一瞬で写真を撮る事も忘れていました。何だったんだろう、あれは?
気を取り直して映画館探し、ホテルのフロントで「オデオンがいいよ」とは聞いていたものの、オデオンはシネコンではなくて、この一帯に何件も上映館があるのです。
1時間ほど迷ってようやく「ハリー・ポッター」の看板を発見。上映が20:30からで、現在時刻は20:35。ダメモトで受付に行くと、何も聞かずに発券してくれました。
場内は予告編の真っ最中で、本編までは時間があったようです。警備員さんに席まで案内してもらって鑑賞開始。本場ロンドンでの鑑賞にちょっとドキドキ。
英語のヒアリングは苦手だけど、原作を読み込んで行ったので特に支障無く見られました。英国人も笑いのポイントは一緒。拍手とかがある訳でもなく、観客マナーは日本と殆ど一緒でした。
と思っていたら、殆どの人がエンドロールを見ずに席を立って行きます。3〜4分もすると場内に残っているのは数名だけという寂しい状況に。警備員さんが懐中電灯を持って「こいつは寝てるのか、エンドロールを見てるのか?」という感じで見回ってきます。結局、上映終了時点で残っていたのはカップル2組と僕だけ。500人は入る劇場だったのに、英国人の潔さに感服です。
映画の後はピカデリーサーカス一帯を散歩。繁華街なのに何となく上品で、酔いつぶれている人や、いかにも危険そうな若者集団は見当たりません。日本人が一人で歩いていても特に見咎められる事無く、終電(24:00)でホテルに帰還。長い1日が終わったのでした。