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タナトス

TVの謝罪会見などで、問い詰められた責任者が長時間黙り込むという場面を目にします。
普通に見ていると「都合が悪いから喋りたくないんだよね」という感想を持ってしまいますが、人間は心理的に追いつめられると「声を出す」という簡単なことすら出来なくなってしまうんですよ。

つい先日近親者が亡くなり、立場上僕が連絡して回ることになりました。
電話で一通りあいさつした後「実は~」と切り出した瞬間、口が固まり何も言えなくなってしまいました。
次に何を話すか頭の中では分かっているのに、どうしても言葉になりません。それどころか「えーっと」といった間投詞すら出てこない、もう完全に石になってしまいました。
声を出せるまで1分ぐらいかかったでしょうか。
口がきけなくなるという体験は生まれて初めてでした。

人間というのは「この言葉を発したら相手はどう感じるか」というのを瞬間的にシミュレートしているのだと思います。
そして、自分の主張が最大限に伝わるように、かつ相手の感情をなるべく害さないように、無意識のうちに言葉を変化させる習慣がついているのではないでしょうか。
漫画を読んでいて「フリーザ死んだよね」だったら、相手はむしろ話題に食いついてくる訳ですから、何の躊躇もなく「死んだ」と口に出せます。
これが身近な人物の訃報だと、相手に強いショックを与えてしまう訳ですから、たったの一言が言えないという状況が発生するのでしょう。

昔の偉い人は「口から出た言葉は相手の耳に届く。心から出た言葉は相手の心に届く」と言っています。
世の中で詐欺師とか嘘つきとか言われている人は、自分の発している言葉が「口先だけ」であり相手の耳に届いた後は泡になって消えてしまうという事を知っているのでしょう。
だからこそ詐欺師は驚くような嘘を平気でつけるのだろうと想像します。

今回の件で言葉には重みがあることを痛感しました。相手の心に届く言葉が言える大人になりたいです。